ハロウィン当日。
事前に試着をしたら当日の気の重さが百倍増すだろうと確信していたハーレイは、当日に初めて仮装衣装とご対面した。
簡単に形が崩れそうにない膨らんだ袖と奇妙としか言いようのないカボチャの色と形のハーフパンツ。
白いタイツはいいとして白い靴はどこから調達してきたのかと尋ねたくなった。
ハーレイの足のサイズはシャングリラ一だからだ。
しかしよく見れば普段の靴を白くペイントしていることに気づく。
(……落ちるんだろうな)
掴み上げてマジマジと見るが、落ちると確信出来なかった。
「…………」
文句を飲み込む。
言ったとして聞く耳はどこにもないからだ。
大きなため息を吐き出してからハーレイは着替えに取りかかった。
上着を脱いでフリル付きシャツを着る。
ズボンを脱いでタイツと動きにくそうなハーフパンツを履く。
靴を履きマントを着ければ王子様の出来上がり……のはずだ。
一瞬、鏡を見てみようかと思ったがやめた。
拒絶感が強くなる事は間違いなさそうで、だからといって脱ぐ事は出来ないのだ。
子供たちが「Trick or Treat」と口にしながら回ってくる夜だけなのが不幸中の幸いだろう。
(そうだ。二時間だけだ)
ハーレイは自分に言い聞かせる。
だがこれを用意した仲間がどう思ったろうかと一瞬考えてしまい、思わずその場にへたり込みそうになった。
間もなく子供たちがやってくる。
「Trick or Treat」と言われたら、 テーブルの上に用意したお菓子を渡せばいい。
そして早く次に行かないともらいそこねるぞ、と言って半ば部屋から追い出してしまえばいいのだ。
よし、この作戦でいこうと思った瞬間、
「似合うよ」
クスクスという笑い声と共に聞こえてきた言葉に、反射的に出そうになった怒声を押さえ込む。
「サイズもぴったり」
自己管理出来てるね、と言うブルーをハーレイは睨むように見た。
薄紫のマントが楽しげに軽やかに揺れる。
「照れ隠ししなくていいよ」
「……していない」
「鏡で見た?」
「見てない」
「似合ってるよ」
「見る気もない」
「もったいない」
言いながらブルーはハーレイの腕を掴み、一瞬後には子供たちの遊び場であるプレイルームに移動していた。
「ほら」
そこには大きめの鏡の代わりになる鏡面壁が設置されていて、三つのカボチャを装備したハーレイの姿が写し出されていた。
「感想は?」
「早く脱ぎたい」
本音を言うハーレイをブルーはきっぱり無視し、
「さて、そろそろ時間かな?」
そう言ってサイオンで気配を探る。
次の瞬間ドアが開き、なだれ込むように入ってきたのはシャングリラ一の元気集団の子供たちだった。
「Trick or Treat」と言う形のまま口が固まっている。
今更逃げも隠れも出来ないハーレイは眉間の皺を更に深くしてブルーを見る。
子供たちに不評では意味がない。
一体この状況をどうするんだ、と視線で問う。
だが一瞬後、子供たちは「王子様だ!」と声をあげて駆け寄ってきた。
「Trick or Treat」
「Trick or Treat」
「Trick or Treat」
子供たちが口々に言う。
そこでハーレイは初めてお菓子が自室のテーブルの上にあるままだということに気づいた。
「ブルー!」
お菓子をここに転送するか、自分を自室に戻してくれと思念で願うがブルーはまたもや無視し、それどころか……。
「お菓子をくれないみたいだから、悪戯しようか」
室内に子供たちの歓声があがった。
嵐の中のような時間が過ぎた。
そろそろ次に行かないと寝る時間になるよ、というブルーの言葉に子供たちはようやく部屋を出て行った。
今や王子どころか元カボチャでしかないしわくちゃの服とボサボサの髪のハーレイは、床に寝転がったまま安堵のため息をついた。「……策略か」
ハーレイの呟きにブルーは微笑で答える。
「それで? 仮装しているようには見えないが?」
起き上がりながらいつも通りのソルジャー服のブルーに問う。
「今年の僕は神様。キャプテンと遊びたいという子供たちの願いを叶えるね」
ウィンクするブルーに「今のは『キャプテンで遊びたい』になっていたが」と講義するが、二度あることは三度あるの諺通りしっかり無視されたのだった。
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