「重要任務って言うから何かと思ったよ」
 不満不快とは正反対の口調でジョミーは言う。
 表情はもちろん笑顔だ。
「重要だ。ソルジャーの最重要任務の一つだ」
 珍しく真顔で言い放つブルーに、ジョミーはひょっとして裏があるのではないかと眉を潜める。
「どうした?」
「そういう顔の時のブルーって、要注意なんだよね」
「どういう顔だ」
「だから、そういう顔。何か企んでる時なんだよ」
「確かに企んでいるが」
「……そうやってはぐらかす」
「事実をありのままに言っているだけだが?」
 そうかもしれないけどね、と心の中で呟いてジョミーは何の反応もしなかった。
「それで今年はどうするんだい?」
 そんなジョミーを追求するでなく、ブルーはさっさと話題を変える。
「一年目の去年はブルーの言うままだったけど、今年は自分で決める」
「可愛かったが?」
「ソルジャーが可愛いとか褒め言葉じゃないし」
「君はまだソルジャーではない」
「はいはい。候補でした、候補」
 この二文字がとれない限り、ブルーには頭が上がらない。
「自分で決める。いいよね?」
「構わないが。惜しいな、あのカボチャ姿が見られないとは」
「あれならカボチャのかぶり物の方がマシだよ!」
 ふっと去年の仮装を思い出してしまって、ジョミーは顔を真っ赤にして反論した。
「そんなに気に入らなかったのか?」
「当たり前だろ! あれじゃカボチャのスカートだ」
「子供たちが読んでいた童話の王子を模したものだったが」
「あんな格好、本当にしてたら笑いものだよ。シャツの袖もカボチャ型でマントまでついてるし」
「色合いはハロウィンだったろう?」
「たとえば! あれが魔界の王子だとしたら、誰も怖がらないと思う」
「魔界の王子だからと言って、悪者と決まっているわけでもあるまい」
 真っ向からブルーに突っ込まれて、ジョミーは言葉を失う。
「残念だが仕方ない。あれは僕が着よう」
「えっ!」
 唐突な言葉にジョミーの心臓は確実に数秒止まった。
(あれを……ブルーが? 恥ずかしくないんだ? 本当に……。僕は嫌がらせだと思っていたのに)
 驚愕が心の中を駆け巡る。
 その様子をブルーは楽しげに眺めていた。
「どんな事をするか、各自ハロウィン当日までナイショにしよう」
「うん!」
 これで今年は乗り切れる! とジョミーがこっそり小さなガッツポーズをしていると、
「ああ、王子役はハーレイにやってもらおうかな」
 クス、とブルーが笑う。
 あのカボチャ装備をしたハーレイをうっかり想像してしまったジョミーは、しばらくハーレイに会わない事を願った。
 視線でも合おうものなら吹き出して笑ってしまいそうだからだ。
「では当日」
「うん」
 負けない! と拳を握りしめるジョミーを、ブルーは楽しげに見ていた。




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